HYROXにおけるゾーン2トレーニングとは、会話を続けられる程度の低い強度で長めに走る(漕ぐ・歩く)練習を指します。息が上がりきらない範囲にとどめ、走る時間そのものを積み上げることが目的です。
結論から言うと、ゾーン2は「速さを上げる練習」ではなく「8,000mを走り切れる土台を作る練習」であり、週の練習時間のうち最も大きい枠を割り当てるべき区分です。HYROXは1kmのランを8回繰り返す競技なので、1本1本の速さより、8本目まで形が崩れないことのほうが結果を左右します。
この記事の要点

- ゾーン2は「会話が続く」「鼻で呼吸できる」「歌は歌えない」あたりが目安です。数字だけで決めず、体感と心拍の両方で確かめます
- HYROXのラン区間は合計8,000mです。HYROX Singles Rulebook 26/27(公式PDF)には「the designated run portion of every HYROX race totals 8,000 meters, divided into eight run segments of approximately 1,000 meters each」と明記されています。土台づくりの必要量は、この総量から逆算します
- 一般の健康づくりの基準としては、厚生労働省の健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 推奨シート:成人版が「強度が3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上」「3メッツ以上の運動を週4メッツ・時以上」「筋力トレーニングを週2〜3日」を推奨しています。競技の土台づくりは、この量を超えたところから始まります
- 強度の決め方は3通りあります。会話テスト、心拍の目安レンジ、主観的運動強度です。どれか1つではなく、2つ以上が一致する範囲を自分のゾーン2とみなします
- レース中の心拍をどう使うかはHYROXの心拍マネジメントに、種目直後の脚で走る練習はコンプロマイズドランニング入門に譲ります。この記事はオフシーズンから準備期にかけての「土台の積み方」に絞ります
対象読者
インターバルやタバタばかりやっていて、レース後半で走れなくなる人です。もしくは、走る練習の強度をどう決めればいいのか分からないまま、毎回「そこそこきつい」で走っている人です。競技そのものが初めての方は先にハイロックス(HYROX)とはをご覧ください。
読了後にできること
自分のゾーン2の上限と下限を、心拍の数字と体感の両方で言えるようになります。そのうえで、1週間の練習時間をどの比率で割り振るかを決められます。
ゾーン2は「速さ」ではなく「量を積める強度」のこと
ゾーン2という呼び方は、練習強度を5段階に区切ったときの下から2番目、という意味で使われています。区切り方そのものは指導者や機器メーカーによって差があり、世界共通の定義があるわけではありません。だからこそ、数字を追う前に「どういう状態か」で押さえておくほうが実務的です。
| 判定の物差し | ゾーン2に入っている状態 | 外れているサイン |
|---|---|---|
| 会話テスト | 短い文なら途切れずに話せる | 3語ごとに息継ぎが要る/黙るしかない |
| 呼吸 | 鼻呼吸を続けられる、または口呼吸でも苦しくない | 口を開けて肩で息をしている |
| 主観的運動強度 | 「楽〜ややきつい」の境目 | 「きつい」以上が続く |
| 翌日の状態 | 同じ練習をもう一度できそう | 脚が重く、階段がつらい |
「楽すぎて意味がないのでは」と感じる人は多いのですが、ゾーン2の目的は追い込むことではありません。同じ量をこなしても翌日に残らない状態を作ることが目的です。残らないからこそ、翌日に種目練習を入れられます。週単位で見たときの総量は、この積み上げでしか増えません。
数字で決めたい場合の目安
心拍計を使う場合は、最大心拍数のおおよそ60〜70パーセントの範囲がゾーン2の目安として扱われることが多いです。最大心拍数を実測していない人は「220から年齢を引く」式の推定値を使うことになりますが、この式は個人差が大きく、実際の値と10拍以上ずれることも珍しくありません。推定値はあくまで出発点として扱い、会話テストの結果とずれたら会話テストを優先してください。
体調や気温でも変わります。暑い日は同じペースでも心拍が上がります。夏場の練習で心拍だけを見てペースを落とすと、実質的に歩きになることもあるため、その日の状況込みで判断します。暑い時期の扱いは夏大会の暑熱対策も併せてご覧ください。
HYROXでゾーン2が要る理由は「8本目」にある
公式ルールブックのとおり、ラン区間は合計8,000mです。8回に分けて走りますが、合計距離は10kmレースに近い量になります。しかもその合間に、スキーエルグ、スレッドプッシュ、スレッドプル、バーピーブロードジャンプ、ローイング、ファーマーズキャリー、サンドバッグランジ、ウォールボールが挟まります。
つまりHYROXのランは、毎回「すでに疲れた状態から入る1km」です。このとき効いてくるのは、5kmのベストタイムではなく、低い強度で長く動き続けられる能力のほうです。
土台が足りないときに出る症状
- 1本目と2本目のラップは揃うのに、4本目以降で1kmあたり30秒以上落ちる
- 種目そのものは止まらずに終わるのに、ROXZONEを出た直後に歩いてしまう
- レース翌日ではなく、レース中に脚が「切れる」感覚が来る
これらは種目の技術不足ではなく、有酸素の土台不足として出ることが多い症状です。心当たりがある場合、インターバルを増やしても改善しにくく、むしろ低強度の総量を増やしたほうが変化が出ます。伸び悩みの切り分け方はタイムが止まったときの原因の探し方にもまとめています。
1週間の組み方:土台に最大の枠を割く

週に使える時間を先に決め、そこから割り振ります。ここでは週4回・合計5時間前後を確保できる想定で書きます。
| 区分 | 週あたりの目安 | 中身 |
|---|---|---|
| 土台(ゾーン2) | 全体の6〜7割 | 40〜70分の連続走を週2回。走れない日はローイングやバイクでも可 |
| 強度 | 全体の1〜2割 | インターバルやテンポ走を週1回 |
| 種目練習 | 全体の2割前後 | スレッド、ウォールボール、ランジなどの動作づくりを週1回 |
| 補強 | 上記に上乗せ | 筋力トレーニングを週2〜3日(前掲の身体活動・運動ガイド2023の推奨に沿う) |
比率を「6〜7割」と広く取っているのは、シーズンのどこにいるかで動くからです。大会まで3か月以上あるなら7割まで寄せ、大会が近づくにつれて強度と種目練習の比率を上げます。直前期の詰め方はHYROX直前期の調整プランを参照してください。
走れない日をどう埋めるか
膝や足首に不安がある日、雨や酷暑の日は、ローイングやエアバイクに置き換えます。ゾーン2は「走る」ことが本質ではなく、「低い強度で長く動く」ことが本質なので、種目が変わっても土台は積めます。ローイングに置き換える場合、レースで使うマシンと同じ機種で漕げるなら、フォームの反復も同時にできます。ローイングの姿勢はローイング着座ルールとフォームの見直し方にまとめています。
1回の長さをどう決めるか
最初から60分を狙う必要はありません。連続で30分を会話できる強度で動けるところから始め、1〜2週ごとに5分ずつ伸ばすのが無理のない増やし方です。伸ばすのは時間だけにして、同じ週にペースも上げるのは避けます。時間と強度を同時に動かすと、うまくいかなかったときにどちらが原因か分からなくなります。
何週続けるかと、次に何へ渡すか

土台づくりは「終わり」がある区間ではなく、量を確保する期間と、量を維持しながら強度を足す期間に分かれます。
- 第1段階(4〜6週):連続時間を伸ばすことだけに集中します。ペースは意図的に上げません
- 第2段階(4〜6週):週1回のテンポ走を足します。土台の量は減らさず、上に積む形にします
- 第3段階(4〜8週):種目直後に走る練習(コンプロマイズドランニング)を週1回入れます。ここで初めてレースに近い形になります
- 第4段階(直前2〜6週):総量を落として質を残します。土台の回数は減らしますが、ゼロにはしません
途中で大会が入る場合、第3段階から第4段階へ飛ばすこともあります。順番は守り、長さだけを調整する考え方です。週数の全体設計はHYROX 12週間トレーニングプランや、マラソン経験者向けの16週間の組み立ても参考になります。
よくある失敗
- ゾーン2のつもりで中強度になっている:いちばん多い失敗です。会話テストをしていないと、ほぼ確実に上振れします
- 土台の日にダッシュを混ぜる:「せっかく走るから最後だけ上げよう」は、翌日の質を削ります
- 量が足りないまま強度だけ増やす:脚に不安が出やすくなります。予防の考え方はHYROXの怪我予防を参照してください
- 数字を信じすぎる:推定最大心拍数は個人差があります。機器の表示と体感がずれたら、体感側を疑う前に推定式を疑います
よくある質問
Q1. ゾーン2だけやっていればタイムは伸びますか。
土台が極端に足りない人であれば、しばらくは伸びます。ただしどこかで頭打ちになります。量が確保できたら、週1回の強度練習と種目練習を足す段階に進んでください。
Q2. 心拍計を持っていません。始められますか。
始められます。会話テストと主観的運動強度の2つで判定できます。短い文を声に出して言えるかどうかで確認するのがいちばん簡単です。
Q3. 最大心拍数はどうやって知ればいいですか。
推定式は誤差が大きいため、あくまで出発点として使ってください。実測を伴う測定は負荷が高く、体調や既往によっては勧められません。持病がある方、しばらく運動から離れていた方は、強度を上げる前に医療機関へご相談ください。
Q4. 週にどれくらいの時間が必要ですか。
本記事では週4回・合計5時間前後を例にしましたが、確保できる時間は人それぞれです。時間が取れない場合の組み方は忙しい社会人のHYROX準備プランにまとめています。
Q5. 走る代わりに自転車やローイングでもいいですか。
土台づくりの目的なら置き換えて問題ありません。ただし着地の衝撃に体を慣らす効果は走る練習にしかないため、レースが近づくにつれて走る比率を戻していくのが無難です。
Q6. ゾーン2の日にウォールボールなどの種目練習を入れてもいいですか。
同じ日に入れる場合は、土台の走を先に、種目練習を後にします。順番が逆になると、走る側の強度が上がってしまい、土台の日ではなくなります。
Q7. 減量中でも同じ量をこなせますか。
摂取量を絞っている時期は回復が遅れやすいため、時間を伸ばすペースを緩めてください。考え方はHYROXと減量は両立できるかで扱っています。
Q8. 何週間で効果を感じますか。
個人差が大きく、断定はできません。判断材料としては「同じ心拍で走れるペースが上がったか」「翌日の脚の重さが減ったか」の2点を、4週単位で見比べるのが実務的です。
参考・出典
- HYROX Singles Rulebook 26/27(公式PDF):ラン区間の合計8,000m・8区間の規定
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版:週23メッツ・時、運動週4メッツ・時、筋力トレーニング週2〜3日の推奨
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「メッツ / METs」:運動強度の指標としてのメッツの定義
- HYROX公式サイト:競技概要および大会カレンダー(日程・制度は変更されうるため要公式確認)
最終更新日:2026年9月12日
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